エピローグ
2017年3月20日
First Day
2017年3月21日
Second Day
2017年3月22日
Third Day
2017年3月23日
いずれも noteに掲載
「休みだからおれがおれを演じることからも休む」
熱海、伊豆山の坂爪圭吾さんの家で目覚める。ヒッチハイカーのNさんはすでに出発したようで、ぼくはひとりだった。時刻は9時を回ったところ。スマホで新聞を読み、台所でコップ2杯分のお湯を沸かす。持ってきていたおにぎり2つと白湯で朝ごはんとする。
荷物をまとめたりトイレに行ったりで時間は進んだ。ふとんをしまう。忘れ物はないかなと確認していたら、ガラス戸のところに人影がある。話し声も聞こえる。訪問客かな…と思いつつ、手が止まる。ガラガラと戸が開いて男女1組が入ってきた。挨拶をして中に入ってもらう。ぼくもそろそろ去り時だと思ったので、トイレを借りてからトートバッグ片手に出発した。
外はまぶしく、なかなか春めいている。というかもう春なのかもしれない。通りは車でいっぱいである。自転車で走っている人もちらほらいる。うらやましい。駅について18きっぷを出した。スタンプはこれで最後だろう。
すっかり力が抜けてぼんやり海を眺めていた。横浜で乗り換える。このあたりは乗りなれた区間だが、やはり久喜まではけっこう時間がかかり、あまり気分はすぐれなかった。
久喜で降りて遅い昼食をとる。ついでに本屋に立ち寄り、小さなドイツ語の辞書と『戦争と平和』3巻目を購入する。駅に戻ると運よく太田まで行く東武線があった。
福居まで来ると、帰ってきてよかったと思えた。空はうすい乳白色で、たまに吹く風は2日洗っていないぼくの髪さえフワリとさせた。
休みの間何も家事を済ませていなかったので、すぐに洗濯機を回す。あとは日常がまたゆっくりと時間を埋めていく。
「休みだからおれがおれを演じることからも休む」
昨年の秋ごろ、ぼくは中原中也の詩集を繰り返し読み、中也の故郷の湯田温泉に行ってみたいと思った。
ちょっとすぐに行くには遠いなと思い、すぐに行ったのは彼が晩年を過ごした鎌倉である。
その後、スマホで湯田温泉までの旅程を調べると、鈍行列車では足利から1日では不可能だが、2日あれば行けることがわかった。行き帰りで4日確保すれば、山口の湯田温泉まで行って帰ってこれる。
そんなわけで、3連休に有給を1日プラスして4連休を確保し、旅に出られる機会をつくったのだった。あと準備したことといえば、大阪と新山口に宿を押さえたくらいだ。
そんなわけで迎えた3月17日、前日の仕事の後味が残っていて、気分はややグロッキーだ。6時に起床。荷物はトートバックに準備してある。朝ごはんをスキップして、なぜか朝風呂に入った。白湯を飲みながら本を読み、8時ごろ出発した。ぼくの格好は、ジーパン、革ジャン、サングラスである。
8時30分ごろ東武伊勢崎線福居駅から電車に乗った。久喜駅で青春18きっぷを購入。サングラスをつけたまま18きっぷを改札で差し出すのも慣れてしまった。
11時ごろ戸塚駅で快速アクティー熱海行きに乗り換え。少し経ってから座れた。この後、JRはあまり座れないことを思い知るのだった。熱海駅は混んでいた。また違う電車に乗る。清水駅で再び乗り継ぎ。川崎から岐阜までは高校時代に自転車で走ったことがあるので、なんとなく懐かしい景色が広がる。乗り継ぎ場所の記載を省略するが、名古屋駅で高山行きのひだを見かけると、あぁ、「君の名は」の三葉に会いに行っちゃう人もいるんだろうなと思った。大垣駅での乗り継ぎの際にはだいぶ暗くなってきていた。サングラスを取ってノーマルメガネとなる。米原で最後の乗り継ぎを行う。京都、大阪方面に向かう快速電車である。
大阪に着く前に京都付近から満員電車になっていた。到着の祝福である。7時半も回ってから大阪駅に着いた。シューカツ、ライブ等で何度か訪れているが、いつも新幹線で日帰りしていたので、泊まるのは初めてだ。
予約していたホテルまでは地下鉄で3駅ほどだが、せっかくなので歩く。8時半ごろホテルに着いた。やや高めだったが、バスルームの設備は素晴らしかった。結局シャワーもお風呂も使わずじまいだったが。
夕飯は近くのファミレスで食べた。コンビニでコーヒーを買ってホテルに戻り、置いてあった英字新聞を読んでお茶の時間とした。
翌朝早いので、歯を磨いて10時半過ぎに眠りについた。
やっとのことで湯田温泉に着いた。16時半を回ったところだ。夕暮れどきに差し掛かってはいるものの、まだ明るい。
中原中也記念館に向かってとぼとぼと歩いていく。疲れで目がかすむ。建物敷地に入ってから、入り口がわからなくなり、係員に尋ねた。「もう閉館なんですよ」と言いながら係員の人達は門を閉めた。3月は冬時間のため、入館は4時半までだという。確かに案内板にもそう書いてある。
あきらめた、ぼくはあきらめた。あんなに電車に揺られてきて、肝心の目的地を訪問できないとは悔しいが、ぼくは心折れると同時にふっきれた。
用事がなくなったので、隣の山口駅まで歩くことにした。ちなみに宿は新山口にとってある。歩いていると、広い公園が現れ、キャッチボールを楽しんでいる人達が目立った。スケボーの練習をしている人もいた。いい光景だった。
駅前の通りを歩いたが、結局どこにも入れず、山口駅のそば屋でカツカレーを食べた。おいしかった。今日の救いの1つだった。その後、再び山口線に乗り、新山口まで戻った。
(以上の文は山口駅から新山口駅までの道中で書かれた)
新山口駅前のホテルでスミノフアイスを飲んでいる。時刻は6時45分だ
今日の朝は4時半に起き、ささっと準備をして5時すぎにホテルを出た。地下鉄御堂筋線に乗る。新大阪駅でJRに乗り換え。6時前で薄暗いが、さっそくサングラスをかける。電車は座れたが、けっこう混んでおり、することもなくほとんど寝ていた。姫路で岡山方面の電車に乗り換える。腹が痛くなりトイレに並んだ。和式だし電車は揺れるし革ジャンは着ているしで、なかなか難儀だった。また、途中で線路上に煙があるとかで、10分ほど遅れた。岡山での乗り継ぎ後、糸崎で電車待ちの時間が1時間弱あり、駅を出て少し歩いてみたが、コンビニがあるだけだったので、イートインコーナーでランチとした。
12時ごろ岩国行きの電車に乗る。山あいの土地を電車が駆けていく。岩国で新山口行きの電車に乗り継ぐ。海べりを走るこの電車の景色はピカイチで、曇りの天気とあいまって幻想的な雰囲気に包まれていた。
新山口にホテルをとっているが、目的地の湯田温泉は、山口線で少し北東に戻った位置にあるため、最後の乗り換えをする。山口線の電車にはバスのごとく料金箱が設置されていたが、今は使われていないようだ。
少し遅れたとはいえ、まだ中也記念館の入館最終時刻までには余裕があると思っていた。現実は厳しい?いや、現実は優しい。
4時15分に起きる。5時すぎの電車に乗らねばならない。ホテルを出て駅前のコンビニでおにぎりやパンを買っておく。
山陽本線をまずは岩国まで。電車は寒く、そしてガタンガタン揺れる。なんだか気持ち悪くなってきた。列車のトイレに入る。ものすごく揺れる。そして寒い。結局2回行った。朝日が昇る中、海辺を走る電車からの景色は、ぼくの気分の悪さと対照をなしていた。
岩国から糸崎へ。前の日乗り継ぎ待ちをした糸崎は、今日はすぐに電車が出た。寝たり起きたりしていた。イヤフォンも本もないのだ。お昼ごろ姫路に着いて、少し時間があったので、パンとおにぎりを買い足す。まぶしい陽光の中、大阪と京都をスルーしていく。耳が痛くなってサングラスを外した。
大垣から豊橋行きの電車に乗ったが、午前中にあった安全確認の影響で米原、岡崎間で遅れが残っているらしい。夜熱海までたどり着きたいので、あんまり遅れると命取りだ。岡崎で浜松行きの電車に乗り換え。待ち合わせの関係でこの列車の出発が遅れる。早く浜松に着いてくれと思うが、そこは各停、急ぎようもない。浜松駅で静岡行きの電車が文字通り待ってくれていたので、すべりこみセーフ。あたりは真っ暗になった。
静岡までゴトゴト進む。腹がへった。電車はそれなりに人が乗っている。静岡駅で最後の乗り換え。熱海行きの電車だ。
昼間は海が見えるのだろうが、海の方向には闇しか見えない。ドアが開くたびにひんやりした空気が入ってくる。疲れもかなりたまっており、立っていると時折フラフラする。沼津に着いたあたりでトイレに行きたくなっていた。しかし、列車のトイレが混んでおり、あと少し、我慢することにした。ガタガタと長いトンネルを抜けると、そこが熱海でした。まずはトイレ。
駅前で9時半を回ってやっていたのは、居酒屋を除けば赤い看板のファストフード店のみだったので、そこで夕食を食べた。
今夜は熱海、伊豆山の坂爪圭吾さん宅にお邪魔することにしているので、駅からサササと歩いていく。思ったより遠くはない。昨年秋に自転車で来ているので、見たことある景色だ。
坂爪さん宅には誰もいなかった。ふとんを借りて横になる。寝入ったころに、ヒッチハイカーNさんの訪問があり、Nさんにもふとんを出す。Nさんがシャワーを浴びたりしているうちに、ぼくは夢の世界へ旅立った。
おわり